2017年2月3日金曜日

日本パグウォッシュ会議ヒストリープロジェクト / 黒崎 輝(日本パグウォッシュ会議運営委員)

 2017年に日本パグウォッシュ会議は創設60年の節目を迎える。その記念事業として日本パグウォッシュ会議は、2016年7月に「日本パグウォッシュ会議ヒストリープロジェクト」を始動させた。以下では、現在日本パグウォッシュ会議が活動の柱の一つとして取り組んでいる同プロジェクトについて、その企画や後述する映像記録の作成に関わってきた立場から紹介したい。
 ヒストリープロジェクトは、日本パグウォッシュ会議の歩みを振り返り、インターネットを活用して成果を広く社会に公開することをめざしている。その主な目的は二つある。ひとつは、日本パグウォッシュ会議をより多くの人びとに広く認知してもらうこと、もう一つは、日本パグウォッシュ会議の歴史を記録し、後世に伝えることである。
 そのために日本パグウォッシュ会議のウェブサイトにプロジェクトのページを新設し、そこで同会議の歴史を独自に作成した映像記録を交えて紹介する活動を始めた。2017年1月現在、3編の映像記録が公開中であり、創設60年に向けて全編を公開する予定である。総集編の制作や上映会の開催も計画している。世界33カ国にパグウォッシュ会議のナショナルグループが存在しているが、このような形で活動のアーカイブ化を進めているナショナルグループは、日本パグウォッシュ会議のほかにはないだろう。
 ヒストリープロジェクトは、小沼通二氏に多くを負っている。小沼氏はパグウォッシュ会議の日本グループ発足当初から、その活動に関わってこられた物理学者であり、日本パグウォッシュ会議の歴史の生き証人である。1965年にパグウォッシュ会議の世界大会に初参加され、その後パグウォッシュ会議評議員を務めた小沼氏は、今風にいえばパグウォッシュ会議の“レジェンド”のような存在でもある。これまで公開された映像記録の中で小沼氏は、あまり知られていない興味深いエピソードについて語っている。
小沼通二氏へのインタビュー
 このプロジェクトはまた、これまで日本グループの活動に関わってきた科学者たちが残した史料や論考がなければ実現しなかったであろう。日本グループの科学者たちは活動の詳細な記録を文書として残しており、それらは湯川記念史料室(京都大学)や坂田記念史料室(名古屋大学)に所蔵された湯川秀樹や坂田昌一の個人文書に収められている。また、湯川らはパグウォッシュ精神を普及させるため、数多くの出版物の中でパグウォッシュ会議や日本グループの活動を紹介している。こうした史料や文献がなければ、小沼氏へのインタビューの準備や、その解説の作成は困難を極めたに違いない。

 このプロジェクトが、より多くの科学者や市民がパグウォッシュ会議や日本パグウォッシュ会議の活動に関心を持つきっかけや、理解を深める一助になり、将来の世代へのパグウォッシュ精神の継承に貢献することを願っている。


次回の投稿者は日本パグウォッシュ会議運営委員の池上雅子(東京工業大学教授)さんです。

【投稿者プロフィール】

黒崎 輝(くろさき あきら)
福島大学准教授/専門は国際政治学、国際関係史。『核兵器と日米関係』(有志舎、2006)でサントリー学芸賞受賞。これまでにパグウォッシュ会議、日本パグウォッシュ会議に関する研究論文を発表している。
日本パグウォッシュ会議では運営委員、ヒストリープロジェクト構成、解説を務める。

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